「労働者階級の反乱」を読みました
労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)
- 作者: ブレイディみかこ
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/10/17
- メディア: 新書
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すごく勉強になりました。
トランプ現象とブレグジットを同列に扱うべきではない
全然知らないことだらけでした。
なんとなく、トランプを支持する人、EU離脱を支持する人は同じような人たちなのかと思っていました。
ブレグジットはあくまでも「イギリスのEU離脱」についての話だし、イギリス人のどんな人がどんな理由で離脱を支持するのか、ブレイディさんが調べたりインタビューした話が書いてあり、なるほどといちいち頷きながら読み進めたのでした。
さて、本書は3部から構成されます
個人的に最も興味深いのは第2部です。
労働者階級と言われる人たちの生の言葉、そして彼らが今感じていることが詳しく語られています。
ブレイディさんの身近な人たち、決して裕福でもなく、そして排外的だったり差別的でもない、普通の人たちの声です、
この第2部だけでも是非色々な人に読んでいただきたいです。
第3部は労働者階級の歴史というか、およそ100年間で何が起こり、人々は社会の中でどのように位置づけられ、政治は彼らをどのように扱ったのかが詳しく語られます。
こちらは知識がある人にとっては「歴史の要約」なのでしょうが、私はほとんど知らないことだったので、とても勉強になりました。
ありがとうブレイディさん。
ブレイディさん自身、ポップカルチャーに精通されている方なので、モリッシーやポールウェラーの名前も出てきます。
英国のミュージシャンがインタビューで政治や失業保険を語ることが多かったのはこんな背景があったのか、と。
召使いが労働者になり、婦人参政権運動になり、ストがあり。
市井の人々のナマの声
これがいちばん大事なところですね。
EU離脱に「悪ふざけ」で投票したわけでもなく、差別的な憎悪を募らせたわけでもなく、排外主義的な人たちでもない。
ではなぜEU離脱を支持するのか?
公共サービスを移民が独占する?
例えば病院、その他の公共サービス。
本来それは「英国人のためにあるものだ」と多くの人は主張します。
そして「移民がそれらのサービスを受けていると、英国人がサービスを受けられないじょないか!」という主張につながります。
でもちゃんと税金を払っているのなら、いや、もし払っていなくても誰でも公共サービスは受けられるべきじゃないかとも思えますが、そういう思考に行き着くのでしょうか、、、
移民は安い賃金で働いてローンを払い終わったら帰国する?
興味深い例がありました。
配送ドライバーの仕事であれば、カーナビがマルチリンガルの今、英語が満足に話せなくとも車の運転スキルだけで仕事になりますよね。
実際にその手の仕事にはEUからの移民がたくさんいる、と。
そして安い賃金で働き、祖国へ送金、祖国の家のローンを払い終わったら帰国する、と。
労働者階級の英国人の中には、これに我慢ならないという人がいる、と。
冷静に考えると「なんでダメなの?」と思ってしまいます。
でもブレイディさんが丁寧に拾い集めた声は、そんな単純な答えでは本質が見えないリアルなものでした。
もちろん人それぞれの人生、キャリア、信条があるわけです。
そして、労働者階級は、なんとかして「お上」に自分たちの声を届けなければなりません。
英国の労働者は、歴史期に何度も「声を上げて」きたわけですね。
そして今回のEU離脱も、労働者が声を上げた結果とも言えるのです。
色々な部分でワーキングクラス、ミドルクラスというのは日本人には理解しづらいところがあります。
ワーキングクラスは、一生懸命働いて裕福になればミドルクラスになれるの?とか。
ミドルクラスの人も、お父さんの会社が倒産してしまったら、家族はワーキングクラスに下げるの?とか。
このあたり、全然実感としてわからなかった。
でも第3部をじっくり読むことで、ワーキングクラスの歴史を学ぶことで、なんとなくですがわかったように思えます。
日本の一般市民と共通する部分はあるのか?
あるといえばあるし、ないといえばない。
共通する部分
問題は社会の構造や、政府によって誤魔化されているところがあります。
格差というのは、あくまでも政治が作り出した結果であり、個人の努力や勤勉さとはあまり関係ないように思えます。
しかし、多くの市民が「努力しないダメな市民」を社会の敵にしてしまうところは、両国に共通することかもしれません。
「生活保護もらいやがって」「失業保険で暮らしやがって」
というセリフは両国で聞かれることですね。
そして「その金は日本人/英国人がもらうべきだろ、外国人がもらうなよ」という声も聞かれます。
共通しない部分
英国の労働者階級は、歴史的に「声をあげてきた」のですね。
スト、デモ、時には暴動。
ポップカルチャーやライフスタイルそのものが抗議の声のこともあるわけです。
そしてその声がいつか大きな流れを生み出すことになることもあった。
我が日本は、、、、
声をあげることは殆どありません。
むしろ声を上げる人に対しての冷笑文化というのは、ここ数年でさらに強くなったと思います。
選挙にもいかない、デモにも否定的、ストなんで遥か昔の出来事。
これでは政治は市民の声なんて聞かないも同然ですよね。
この、英国の労働者階級の「声を上げる」の部分が日本に少しでもあれば、、、
と考えてしまいました。